すっかり秋も深まる10月。芸術やスポーツ、グルメなど、楽しみ方にもいろいろありますが、夜の過ごし方では読書がいちばんではないでしょうか。

秋の行事には「読書週間」があり、読書週間にちなんでいろいろな行事が開催されています。スマートフォンで文字を追うことが増えていて、紙媒体の活字を見ることが少なくなっている私たちですが、なかなか外出もままならないときこそ、スマートフォンから目を上げて、本を楽しんでみてはいかがでしょうか。
50代へのおすすめは、大人の感性を広げ、秋の夜長を豊かな時間にしてくれる絵本です。五感を刺激してくれる絵と詩が織りなす素敵な世界を旅してみませんか?
このページにはこんなことが書いてあります
秋の読書週間は10月下旬から
読書週間は、文化の日の前後1週間、毎年10月27日から11月9日と決められています。初日の10月27日は「文字・活字文化の日」に制定されています。

読書週間には平和への願いが込められている
読書週間の歴史は古く、第二次世界大戦が終わって2年後の1947年、読書の力で平和な文化の国を築こうと、出版社や取次、書店、図書館の呼びかけで始まり、新聞社や放送局なども加わって開催されました。2019年で73回を数えます。
戦後間もない時代はものも十分ではありませんでしたが、有志の呼びかけで講演会や展示会などが催され、読書のすばらしさを感じとり、本を通じて思考を深める習慣を身につけることによって幸福な社会をつくりあげてほしいという願いが込められています。
ちなみに、この読書週間とは別に、子どもを対象とした「こどもの読書週間」もあります。こちらは1959年から始まり、毎年4月27日から5月10日と、こどもの日の前後に期間が設定されています。
読書週間にあわせて行われるイベント
読書週間には、全国各地の図書館や書店がイベントを企画します。ここでは主なイベントを紹介しますが、このほかにもユニークで楽しい企画がたくさんありますので、ぜひ近くの図書館や書店をのぞいて確かめてみてくださいね。

図書館・学習センターなどでのイベント
図書館や学習センターなどの公共機関は、地域のさまざまな人が来て楽しめるよう、大勢が参加するイベントやグループでの体験ものなどが充実しています。
また、公共機関が主催する場合は、参加費が無料だったり、材料費程度の低価格だったりと、家族単位でも参加しやすいイベントが多くなっているのも特徴です。
- 大勢の観客を呼んで行うイベント:朗読会、コンサート、劇、上映会
- 本好きが集っておすすめ本を語りあうイベント:ビブリオバトル
- 本を大切にする心を育てるイベント:古本市・リサイクル、本の病院
- 本や著者に関連するイベント:展示会、作家を招いた講演会、ワークショップ
- 図書館を知るイベント:図書館ツアー
- その他、つくって遊ぶイベント:しおり・カードづくり、絵手紙教室、クッキング
書店でのイベント
書店の場合は、商業ベースで企画されるものが多くなりますが、中にはユニークなイベントもあります。書店ごとに工夫を凝らし、読書週間にちなんだコーナーを設けるなど楽しませてくれているので、時々立ち寄ってチェックするといいですよ。
- 書店くじ:日本書店商業連合会の参加書店で実施されているものなど
- スタンプラリー:書店を回ってスタンプを集めるなど
- お泊りツアー:書店の中に泊まる体験イベント。大型書店のジュンク堂が初めたものですが、2019年以降の開催は未定となっています。
大人だからこそ絵本の世界で心を豊かに
絵本というと子どもが読むもの、大人は読み聞かせを行うくらいだと思われるかもしれませんが、大人だからこそ感じる絵本のよさもあります。

絵本のほんとうの魅力は、大人だからこそわかる
絵本には、絵画としての美しさ、詩のように洗練されたことばの切なさや温かさがあり、ページをめくるごとに感性が呼び覚まされ、心が豊かになっていきます。
幼い頃に読んでもらった絵本、自分で読んだ絵本、子どもに読み聞かせた絵本。年齢を重ねるたびに見えるものや感じるポイントが変わってきます。同じ絵本でもまったく違う印象になり、驚くこともしばしばあります。
子どもたちでも楽しめる絵本には、難しいことばも解釈が必要となる複雑な図式もありません。立派な解釈も、正誤も良し悪しもなく、ただありのままに感じて楽しむことをすすめてくれる、シンプルな絵と詩が用意されているだけです。
絵本には、日ごろの仕事モードから開放され、ちょっとした旅行に出かけているような気分にさせてくれる、不思議な魅力があります。
絵本セラピーは、ありのままの自分を見つめ直す心理療法
絵本の魅力を最大限に引き出した心理療法に、絵本セラピーがあります。
絵本セラピーは、絵本の読み聞かせやグループでの対話を通じてこれまでの自分をふりかえり、気持ちを見つめ直していくことで、ありのままの自分を受け入れ、前向きになっていけるようにサポートする心理療法です。
絵本セラピーはもともと大人向けに考案されたものですが、なかには思春期の子どもたち向けのプログラムを考案して活動しているところもあります。
絵本は、誰もが入りやすい絵と詩で読む人の心をほぐし、読みあう者がつながる温かい場をつくってくれます。そして、日ごろ抑えている感情を開放することでストレスの軽減を図り、生きる力を引き出してくれるのです。
大人の味わいを堪能するおすすめ絵本10選
いろいろな年輪を重ねた50代、秋の夜長にじっくり味わう絵本は、静かな時間の美しさを堪能し、来し方行く末のしあわせをかみしめるものがおすすめです。
昔から読みつがれている絵本のうち、とくに感性に響く10点を厳選してご紹介します。
ゆっくりゆっくり、声に出して読むスピードでページをめくってみてください。
静けさを味わう絵本
ねむれないのちいくまくん

大きなくまのおおくまさんと、小さなくまのちいくまくんのお話。夜の暗さが怖くてどうしても眠れないちいくまくんに、おおくまさんがいろいろとしてあげるのですが、そのひとつひとつがやさしさにあふれています。
特に最後におおくまさんがしてあげたシーンは、心が震える美しさです。
にぐるま ひいて

古いアメリカの家族のようすが描かれた絵本。10月、1年間の成果を積んだ荷車を引いて市場へ行き、すべて売り払って家族のための必需品を買い、家に戻ります。そして冬、新たな1年がはじまり、続きます。
土や森、家畜と共に生きる家族の営みが、木版に描かれた素朴な絵により、おだやかで静かな世界となって広がります。ゆっくりと読み進めていくと、雑音にとらわれず、地に足ついて生きていくことの大切さを思い出させてくれる絵本です。
もりのかくれんぼう

おにいちゃんを追いかけているうちに、金色の秋の森に迷い込んだ女の子が、もりのかくれんぼうという男の子と出会い、森の動物たちと一緒にかくれんぼをして遊びます。
見開きいっぱいに広がる黄金の森がたいへん美しい絵本なのですが、かくれんぼをして遊んでいる動物たちがとてもうまく隠れていて、すぐには見つけられないほど。(表紙にも隠れていますよ)1ページずつ、秋の森を探索するように楽しめる絵本です。
新しいものをみつける絵本
だってだってのおばあさん

「だって、わたしはおばあさんだもの」が口ぐせのおばあさんが、99歳の誕生日に5本のろうそくでお祝いしたことをきっかけに「あら、そうね」と変わっていく物語。
いつのまにか染み付いてしまった「できない」思い込みがすっと落ちて、新しいことを試していくことの楽しさや喜びがじわっと広がります。
ことばのテンポもよくて、声に出して読んでみてください。元気がでる絵本です。
ぼくを探しに/ビッグオーとの出会い

足りないかけらを探しにいく「ぼく」が転がりながら進んでいくお話。かけらを探しているとき、かけらがみつかったとき、そして・・・。白い紙の上にシンプルな黒い線と短いセンテンスだけで描かれる世界は、開くたびに新しい気持ちを生み出します。
読むたびにいろいろなことを思い出し、励まされたり、慰められたり、誰かを想ったり。静かな中にさまざまな感情が湧き出てくる絵本です。

『ビッグ・オーとの出会い』は続編で、残された「かけら」の物語。誰かに連れて行ってもらうことを夢見て待っているかけらに、いろいろなものがやってきて、過ぎていきます。そこにやってきたのがビッグ・オー。一緒に転がっていこうと誘われるのですが、かけらは角があって無理だといって・・・。
『ぼくを探しに』同様のシンプルな線とセンテンスは、読む時々で訴えるものを変えてきます。両冊をセットで読むことで、共感の幅が大きく広がる絵本です。
ちなみに、この2冊には、訳者のあとがきがついていますが、解釈の幅が狭められるため、読まずに作品と出会うことをおすすめします。
おじさんのかさ

りっぱな傘が大好きすぎて、持ち歩くのに使わないおじさん。ある雨の日にはじめて傘を広げる事件が起きます。
傘を愛おしむおじさんの行動がとても滑稽なのですが、我に返ると同じようなこだわりで周囲からすればおかしなことをしていないかと反省してしまいます。
雨に濡れた傘を前に、満足そうなおじさんの姿が心に残る絵本です。
しあわせを考える絵本
くまのコールテンくん

デパートで売れ残っているくまのぬいぐるみ、コールテンくんが、女の子と出会い、デパートのなかでちょっとした冒険をするお語。
コールテンくんは、目の前に起きるさまざまなできごとを、「ぼく、ずっとまえからやってみたいとおもってたんだ」と、まるごと受け止めて前向きに進んでいきます。
声に出してコールテンくんの口ぐせを真似ていきたい絵本です。
しろいうさぎとくろいうさぎ

森にすむ、2羽のうさぎの物語。悲しい顔やびっくりした顔、愛おしむ顔と、表情がとても豊かで、みていて心が動かされます。黒いうさぎと白いうさぎという設定が、現実に広がるさまざまな状況を呼び起こします。
とてもシンプルなストーリーなだけに、しあわせになるということの意味を改めて考えさせられる絵本です。
おだんごスープ

おばあさんに先立たれたおじいさんが、おばあさんの作ってくれたおだんごスープを思い出しながら作ってみるお話。中に入れるものを少しずつ思い出し、だんだん味が近づいていくなかで、味見をしたいといろいろな動物たちがやってきて・・・。
お話自体は単純な展開ですが、描かれる絵の構成が素晴らしく、色使いや表情、背景の描き方などがテキストと呼応して、年齢を重ねてから読むと、切なさで胸がいっぱいになる絵本です。
100万回生きたねこ

100万回も生き返っていろいろな人に飼われたとらねこが、野良猫になったとき、ある白いねこと出会って変わっていくお話。
50代ともなると、いろいろな人たちとの出会いや別れをかみしめてきていますが、とらねこのバイタリティだとか白いねことの関係性だとかの単純な解釈を飛び越えたところで心が揺さぶられます。
最後のフレーズを読んだときに心に残るものを、その時々で味わっていきたい絵本です。
まとめ
肌寒さも増した10月の夜は、静かに絵本を広げて心の旅にでかけましょう。パソコンやスマートフォンといったデジタルデータを検索するだけでは広がらない、絵と詩の新しい世界を堪能してください。
読書週間のころは、図書館や書店の中でもいろいろな特集コーナーができます。いつもは素通りする棚にも足を向けて、偶然の出会いを楽しんでみてはいかがでしょうか。