子どもが自分の道を歩み、これからは自分たちのために時間を使えるようになると楽しみが増えてくる50代ですが、一方で少しずつ、自分や周りの人たちの健康問題や親の介護・看取りといった心配事も増えてきます。

特に、身近な人が亡くなったときの混乱は、とても大きなものです。

さまざまな手続きが待ったなしに迫ってくるため、悲しみに浸る余裕もないままに流されてしまい、心が置き去りにされてしまったり、よくわからないことだらけでトラブルが続き、遺された者どうしの仲が悪くなってしまったり。

縁起でもない話かもしれません。でも、なにもない平和なときにこそ、きちんと考えたいのが、死後の手続きなのです。

ここでは簡単にですが、どのような流れがあるのかをご紹介したいと思います。

身近な人が亡くなった直後に必要な手続き

身近な人とのお別れが迫っているときは、生きてほしいという気持ちがいっぱいで、何も手につかないことでしょう。

でも、ひとつ心しておきたいのが、いちばん慌ただしくて手続きが多く、精神的にも体力的にもたいへんになるのが、亡くなった直後から2週間くらいまでのあいだだということです。

次のような手続きが次々と押し寄せます。いまのうちからどのような状況が起きるのか、簡単にイメージしておくだけでも、心のもちようが変わります。

病院などでとる手続き

危篤の知らせを受け取り、臨終を迎えたときには、医師や警察から死亡したことを証明するものを受け取り、遺体を搬送する手続きをとることになります。

  • 家族や近しい人へ危篤を知らせ、臨終に立ち会う
  • 医師から死亡診断書(自宅や突然死などの場合は警察から死体検案書)を受け取る
  • 葬儀社を決め、自宅か斎場への遺体搬送を依頼する

通夜までの手続き

葬儀社と葬儀(お通夜・告別式)の段取りについて打ち合わせ、親族や友人・知人に知らせます。また、火葬や埋葬には許可がいるので、市町村へ届け出を行い、お通夜の準備をします。

葬儀の段取り・打ち合わせ

  • 遺体を安置し、燭台や花立て、水、線香などで「枕飾り」を行う
  • 喪主を決める
  • 葬儀の形を決める(宗教、祭壇の規模、参列者の人数規模、予算など)
  • 葬儀社の見積もりを確認し、正式に依頼する
  • お通夜、葬儀・告別式、初七日の日程と場所を決める
  • 菩提寺や所属する教会などがある場合は連絡をとり、戒名など宗教上必要なものを相談する
  • 遺影に使う写真を用意する
  • 当面の支払いに必要な現金を用意する
  • 親族や友人・知人、職場の関係者などへ、お通夜、葬儀・告別式の日程と時間を連絡する
  • 市町村役場で死亡届火葬許可申請書の手続きをとる(葬儀社が代行することもある)

納棺・お通夜の準備

  • 遺体を棺に納める(納棺)
  • 祭壇をつくり、受付の準備をする
  • お通夜の席次やお焼香(献花、榊の奉納など)の順番を決める
  • 返礼品、会葬礼状を手配する
  • 通夜振る舞い(飲み物、軽食、菓子など)を用意する
  • 喪服に着替える
  • 聖職者(僧侶、神官、神父など)をお迎えして葬儀の打ち合わせをする

お通夜

  • 弔問客を受け付け、応対する
  • お通夜を執り行い、喪主が挨拶する
  • 聖職者に御礼をする
  • 葬儀社と葬儀・告別式の打ち合わせをする
  • 遺族が夜通し見守り、故人を偲ぶ

葬儀・告別式から初七日までの流れ

葬儀・告別式でお別れの儀式を行い、出棺して火葬場で荼毘に付します。

地域の風習や宗教の違いなどで細かなところは異なります。地元の葬儀社だと習慣上のふるまいに詳しい場合が多いので、問い合わせるとよいでしょう。

なお、一般的に「葬儀」は遺族や親族、「告別式」は友人・知人がお別れをする儀式を指しますが、最近は同時に行うことが多くなっています。時間があわせづらい現在では、初七日や納骨も火葬の当日に行い、1日で終わらせる場合もあります。

葬儀・告別式の準備

  • 葬儀社、司会者、式の世話役などと、葬儀・告別式の段取りを確認する
  • 供花、供物を整理し、並べ方を決める
  • 弔辞を依頼する
  • 葬儀・告別式の席次やお焼香(献花、榊の奉納など)の順番を決める
  • 弔電の読む順番を決め、司会者にわたす
  • 火葬場へ行く人数を確認し、車を手配する
  • 棺を持つ人を決める
  • 返礼品、会葬礼状を確認し、受付を準備する
  • 遺骨迎えと精進落し(葬儀後に行う会食)の手配をする
  • 出棺時の喪主の挨拶を用意する
  • お布施(聖職者への献金)を用意する

葬儀・告別式、火葬

  • 喪服に着替え、聖職者や弔問客を迎える
  • 葬儀・告別式を執り行い、喪主が挨拶する
  • 火葬場へ移動し、火葬許可証を職員へ渡す
  • 遺骨を受け取り、骨上げする(骨壷に納める)
  • 遺骨と埋葬許可証を受け取って帰宅する
  • 還骨法要(遺骨を持ち帰ったときの儀式)を行う
  • 精進落しの席を設けて会食する
  • 聖職者へお布施を渡す
  • 香典返しの手配をする

2週間~1ヵ月以内にする手続き

死亡したという連絡を社会的に手続きする期間です。主に市町村役場や健保などの公的機関と職場へ届け出を出す形になります。

悲しみや葬儀などの対応から心労が重なりやすい時期なのに、手続きの期限が短いものも多いため、特にこの期間はリストを参考にしながら、優先順位をつけて、ひとつひとつ着実にこなしていくようにしましょう。

ひとりだとたいへんなので、詳しい人を探しておき、相談できると心丈夫です。

できるだけ早く

  • 職場への死亡・退職届(会社へ。連絡だけは死亡時にすぐ。退職手続きは葬儀後すぐに)
  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届(会社または協会けんぽへ。健康保険は5日以内、厚生年金保険は10日以内と早いので、できるだけ早く。保険証も返却

2週間以内に

  • 世帯主変更届(市町村役場へ。住民異動届と同じ場合もある。遺された世帯員が1名のときや、誰が世帯主になるのかがはっきりしているときは手続き不要。)
  • 児童扶養手当認定請求書(母子家庭になった場合。市町村役場へ。)
  • 国民健康保険資格喪失届(市町村役場へ。保険証も返却。亡くなった方が世帯主の場合、家族全員の保険証について世帯主の書き換えも必要)
  • 後期高齢者医療資格喪失届(市町村役場へ。受給者証も返却)
  • 介護保険資格喪失届(市町村役場へ。介護保険証も返却)
  • 年金受給停止の手続き(年金受給者の方が亡くなった場合。市町村役場へ

1カ月以内に

  • 未支給失業給付金の請求(死亡の前日までの失業手当を、生計を同じにしていた人が受け取れる。ハローワークへ。)
  • 個人事業の廃業・承継の届出(所轄の税務署へ)

数カ月から数年以内にする手続き

この時期には、名義を変更したり年金や相続などの手続き、給付や還付金などの申請があります。継続して使用料金がかかるものや、亡くなったことで給付・還付されるものなどは、余裕ができたら取り掛かりましょう。中には1カ月以内など比較的早いものもあるため、時々チェックしておくと安心です。

手続きの種類によって、戸籍謄本や住民票、所得証明書、印鑑証明書などの書類を求められるものも多いので、あらかじめ何が必要かを確認し、書類を揃えてから窓口へ行くとよいでしょう。

なるべく早く

  • 電気・ガス・水道の名義手続き変更、停止(所轄の営業所へ。電話でも可能だが、銀行引き落としの場合は金融機関での手続きが必要)
  • 固定電話・携帯電話、インターネットの名義変更、停止(契約会社の窓口へ)
  • 公団・公営の賃貸住宅の名義変更(所轄の営業所へ)
  • 民間の借地・借家の名義変更(地主・家主へ)
  • 住宅ローンの団体生命保険による残債支払いの手続き(契約先、借入先の金融機関へ。)
  • NHK受信料の契約者変更、停止(NHKのフリーダイヤルへ。銀行引き落としの場合は金融機関での手続きが必要)
  • クレジットカード、各種会員権の解約(各社窓口へ)
  • 身体障害者手帳の返還(市町村役場・福祉事務所へ)
  • 運転免許証の返還(警察署・公安委員会へ。ただし更新手続きをしなければ自動的に失効するので放っておいても大丈夫)

4カ月~10カ月のあいだに

  • 所得税の準確定申告・納付(4カ月以内:故人の所轄の税務署へ)
  • 相続税の申告・納付(10カ月以内:所轄の税務署へ)
  • 預貯金の相続(相続関係が確定したらすみやかに。各金融機関へ)
  • 不動産の相続(相続関係が確定したらすみやかに。不動産所在地の法務局へ)
  • 株・郵券証券の相続(相続関係が確定したらすみやかに。信託銀行、証券会社などへ)
  • 自動車の相続(相続関係が確定したらすみやかに。新しい所有者の所轄の陸運局へ)

2年のあいだに

  • 葬祭費支給申請(国民健康保険、後期高齢者医療制度制度に加入していた場合。名称は市町村により異なる。市町村役場へ。)
  • 埋葬料支給申請(会社などの健康保険に加入し、本人が死亡した場合。名称は保険組合により異なる。健康保険組合もしくは協会けんぽへ。)
  • 家族埋葬料支給申請(会社などの健康保険に加入し、家族が死亡した場合。名称は保険組合により異なる。健康保険組合もしくは協会けんぽへ。)
  • 高額医療費の還付申請(健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度に加入していた場合。国民保険は市町村役場、健康保険は組合もしくは協会けんぽへ。75歳以上または65歳以上の障害者は市町村役場へ。)
  • 死亡一時金給付請求(老齢基礎年金、障害基礎年金を受け取らずに亡くなった場合、生計を同じくする遺族が受け取る。市町村役場へ)

3年~5年のあいだに

  • 死亡保険金、医療給付金などの請求(3年以内・かんぽ生命は5年以内:生命保険に加入していた場合。各会社へ)
  • 医療費控除の手続き(確定申告と同時に、5年以内。故人の所轄の税務署へ)
  • 遺族基礎年金給付請求(国民年金加入者の場合。5年以内。市町村役場へ)
  • 遺族厚生(共済)年金給付請求(厚生年金、共済年金加入者の場合。5年以内。年金事務所へ)
  • 寡婦年金給付請求(国民年金の第1号被保険者で25年以上保険料を納めていた場合で、10年以上婚姻関係にあった妻。60歳から65歳まで受け取れる。5年以内に市町村役場へ)

まとめ

「亡くなったときはシンプルに、特別なことをしないでいい」と考えていたとしても、法的・社会的にとらなければならない手続きが膨大にあることが、わかっていただけたかと思います。

ここでは箇条書きに羅列しただけですが、この手続きひとつひとに、連絡をとって提出書類を集め、記入し、郵送したり窓口に提出したりするわけです。

遺族は、悲しみにくれる中でこのような煩雑でお金の絡む手続きを進めていかなければならず、精神的にもかなりの負担になる人が少なくありません。

少しでも「そのとき」の困難を減らせるよう、余裕のあるうちに手続き内容の手順や必要書類を調べたりしておくと、心構えができてよいのではないでしょうか。