暑い夏がようやく過ぎて活動的な秋を迎える区切りの9月、みなさんはどんな行事で秋の生活を始めますか?

芸術の秋、スポーツの秋など秋にもいろいろありますが、忘れてはならないのが収穫の秋。9月からは、秋の運動会と並び、秋祭りが盛んになります。

秋の祭りは、自然の恵みや大地の力といった「神々への感謝」をうたい、力強さを感じるものが多く、みどころたっぷりです。

ここでは、秋祭りをめぐるミニ知識と、9月に開催される主なお祭りをご紹介します。

秋祭りは収穫を感謝する神々への儀式

世界各地で開催される祭りは、その土地の民俗文化や経済のしくみと密接に関わりながら発展してきました。

モンスーン地帯で四季のはっきりとした日本は、古くから農耕民族として社会を形成してきました。春には土を耕して種を撒き、苗を植え、夏には草を取り、水をやり、秋には収穫して蓄え、冬にはこもって雪解けを待つといった具合に、季節ごとに生活スタイルがあります。

このため、季節ごとに自然を司る神々への祈りや感謝が「祭り」へと反映されていきました。春は豊作を祈願する祈り、夏は作物の生長や病害回避の祈り、秋は収穫の感謝、冬は新年を寿ぎ次の春の幸を願う形で、祭りの儀式が行われるようになったのです。

「祀る」から「祭り」へ

もともと「祭り」は「祀る」からきた言葉で、神々や仏、先祖を祀る行為からきています。

かつて自然の脅威と寄り添いながら生活してきた人々は、コントロールしきれない自然現象を神や仏といった超常的な存在がもたらした現象と考え、祭司役となる人を通じて神仏と対話することにより、生活基盤を守ろうとしました。

このため、社会の維持に必要な行事や決めごとは、なにごとも神仏へ祀ることからスタートしてきました。今でも政治のことを「まつりごと」といいますが、これも「祀る」から派生しているとされています。

今では経済の構造も変わり、政治もお祭りも宗教的要素は薄れていますが、もとをたどれば祭祀という神事から来ているものなのですね。

お祭りには神事と余興がある

お祭りは神々を祀るものですから、祭司役が神仏への祈りや感謝を奉納する神事としての行事があります。そして、地域の人全員でにぎやかに祝い、神仏を喜ばせようとする余興が続くという形が、お祭りの主な流れになっています。

みなさんがお住まいの地域の秋祭りもよく観察してみると、宮司が神社の中で収穫の感謝を祈祷した後、神輿かつぎや奉納相撲などの神事が行われ、さらに地域みなが参加する踊りや花火などの余興が続いていくといった形になっているかもしれませんよ。

祭りに欠かせないパワーグッズたち

神々との交信行事ともいえるお祭りですから、神々へ捧げ、喜ばせようとするいろいろな道具があります。

ここでは、神輿やお囃子など、お祭りに欠かせない道具たちをみていきましょう。

神輿(みこし):神々の乗り物をかつぎ、ゆらして力を得る

輿(こし)という言葉は、人を乗せて持ち上げ、多くの人がかついで運んでいく乗り物を指します。ですから、神輿(みこし)は、神様を乗せてかつぐ乗り物ということになります。

神々は、ふだんは神社の中に祀られていますが、祭りになると神社から地域に出て人々に力を与えたり、厄災を祓ったりしてくれます。このため、神社から地域へ神々を連れ出すための乗り物として神輿をかつぐのです。

神々が乗っている神輿ですから、当然ですが、上から神輿を見下ろしてはいけないのがルールになっています。

それから、神輿をかついだとき「わっしょい」と大声をだしたり、ゆらしたり、ぶつけたりするのをよくみますが、音をだしたりゆさぶったりすることで、乗っている神々の霊力が強まり、地域へより大きな恵みをあたえてくれるようになるとされています。

山車(だし):神々の依代(よりしろ)となる山を引き歩く

祭礼に用いられる出し物を山車(だし)といいますが、屋台のような車のついたものを指し、引いて練り歩くものが多いと思います。

山の字が入っているのは、古くから日本にある山への信仰心からきています。山や山頂の岩、巨木などが神々の宿る依代(よりしろ)として崇められ、山頂や山麓で祭礼が行われてきたものが、人が暮らすまちへ移動するうち、山を模した出し物をつくって依代としたところからきているとされています。

ちなみに、読み方が「だし」なのは、神社から外へ出す「出し」物という意味から来ているという説と、山車の中心の鉾(ほこ)先にひげのような髭籠(ひげこ)を「出し」ていたからだという説があるようですが、定かではありません。

山車も神輿と同様に、声をかけて引いたり、勇ましくぶつけあったりすることで、神々の霊力を大きくすることが多く、イベントのクライマックスになったりします。

お囃子(おはやし):神楽で神々によびかける

横笛や鉦(かね)、太鼓(たいこ)を鳴らしながら練り歩くお囃子(おはやし)も、お祭りに欠かせない道具ですね。

囃子(はやし)は、神楽や能などで演奏される音楽全般を指していたのですが、今はお祭りのときに演奏して奉納する「祭り囃子(まつりばやし)」が有名になっています。

お囃子の組み合わせは、笛1名、鉦(かね)1名、大太鼓(おおだいこ)1名、小太鼓(こだいこ)2名の5名を1組として編成されることが多いとされています。お囃子は神々へ呼びかけるための呪具だともいえそうですね。

なお、お囃子の中の太鼓(たいこ)については、太鼓の音が雷を模し、雷神の霊力も借りて邪気を祓う意味もあるといわれています。

お祭りに欠かせない祭り囃子は、神々へ呼びかけ、平安を保つための大切なものだったのですね。地域に伝わる担い手をなくさないように、育てていきたいものですね。

9月の秋祭りを3つのタイプ別にご紹介

ここからは、特に9月に開催される著名な秋祭りを、「踊り」「神輿・山車」「お囃子」の3つのタイプ別にご紹介していきましょう。

踊るお祭り

まだ夏との別れが名残惜しい9月には、8月から続く踊りをメインにしたお祭りも多く開催されます。夏にあまり踊らなかったみなさん、軽く一緒に体を動かしてみるのもいいですよ。

おわら風の盆(おわらかぜのぼん)

おわら風の盆は、富山県富山市八尾地区で9月1日~3日にかけて行われる踊りの祭りです。そろいの浴衣や法被をまとい、編笠を深くかぶった優美な姿で歌い踊り、流し歩きます。

収穫を待ちわびる二百十日ごろは、台風が集中してやってくる時期でもあり、風よけの祭りを「風の盆」と呼んで豊作祈願を行ったところから来ています。

「おわら」の由来は、無礼講の「大笑い」からきている、豊作祈念の「大藁」からきている、小原村発生だからなど、諸説あります。

五ヶ瀬の荒踊(ごかせのあらおどり)

五ヶ瀬の荒踊は、宮崎県五ヶ瀬に伝わる伝統芸能で、9月の最終日曜日に開催されます。

その昔、城主が守護神へ奉納する形で定められたとされており、新発意といわれる寺の後継者や寺で飼われていた猿、武者装束で様々な武器を手にする人など、古式ゆかしい戦の装いで往時のようすを伝えます。

行列の隊形で披露される勇壮な踊りと、円陣の隊形になっての優雅で静かな踊りが組み合わさり、見ごたえのある構成になっています。

神輿・山車のお祭り

神々の乗り物を豪華に繰り出し、賑やかに引き回して競い合うお祭りは、力強い秋祭りの真骨頂ともいえそうですね。

能登のキリコ祭り(のとのきりこまつり)

キリコは「切籠」のことで、奉燈(ほうとう)とも呼ばれます。高さが数メートルから十数メートルにもなる巨大な灯籠がいくつも立ち並び、まちなかで、海で乱舞するお祭りです。能登半島全体で7月から10月まで、200から300ものキリコが舞います。

特に、9月の第2土曜日に開催される「寺家の秋祭り(じけのあきまつり)」は、日本最大のキリコが登場することで有名です

漆のつややかな黒と金箔で装飾されたキリコに火が灯り、夜通し練り歩く姿がとても豪華で美しいお祭りです。

岸和田だんじり祭(きしわだだんじりまつり)

岸和田だんじり祭りは、大阪府岸和田市で敬老の日前後に開催されるお祭りです

重さ4トンにもなる巨大なだんじり(山車)を勢いよく引き、街中を走り回ります。豪快な掛け声と軽快な鳴り物が響き、賑やかで力強いお祭りです。

特に、町の曲がり角でみられる「やりまわし」は、勢いよく走りながらだんじりを直角に曲げる方向転換が大きな見どころです。お祭りの2日間、だんじりは行路を何周も何周も駆けまわり、曲がり角ごとにやりまわしを行います。この迫力とスピード感は鳥肌ものの勇壮さです。

お囃子のお祭り

勇壮な太鼓の音で神々への感謝とこれからの平安を願うお祭りもあります。

大正エイサー(たいしょうえいさー)

9月上旬に大阪市大正区で開催されるエイサー祭りです。

エイサーは、沖縄の旧盆の夜、先祖を供養するために披露しあう演舞の祭りで、太鼓や三線の音、歌声がみごとに揃い、躍動感あふれています。

沖縄では8月下旬から9月初頭にかけ、旧盆が明けた最初の週末に開催されるのですが、この沖縄の熱い心を受け継ぐように、大阪で9月に開催されるのが大正エイサーです。

大阪市大正区は、4人に1人が沖縄出身といわれるくらい、沖縄にルーツのある人が多く住んでいます。遠く離れた大阪で誇り高く生きようと、文化を継ぐお祭りとして、毎年開催されています。全国からエイサーの仲間が集まり、明日への力を生む踊りを披露しています。

面浮立(めんぶりゅう)

面浮立は、佐賀県鹿島市に伝わる民族芸能です。

鬼の面(浮立面)をつけ、シャグマと呼ばれる毛や麻を揺らし、体の前にもった太鼓を鳴らして舞う、勇壮なお祭りです。

その昔、戦のときに鬼の面をつけ、太鼓や笛を鳴らしながら奇襲をかけて勝利したのがはじまりとされています。現在は、五穀豊穣を感謝し、悪霊退散を祈願するため、各地の神社へ奉納されています。鬼とはいいますが、悪霊を退治する鬼として、親しまれ、大切にされているのですね。

まとめ

もともと旧暦の9月に祝っていたころは、収穫などの季節感ともぴったりあっているため、秋祭りがしっくりきていましたが、現在では季節が早くすぎてしまうため、まだ残暑が残る中でのお祭りが多いですが、そのぶん夜の寒さはまだ強くないので、過ごしやすいと思います。

秋の気配を日増しに感じる9月には、秋祭りで自然の恵みへ感謝しながら、季節をたっぷり楽しんでみてはいかがでしょうか。